ミラーレス一眼を買おうとして、ボディの価格表とレンズの価格表を交互に眺めながら、予算配分に頭を抱えた経験はないでしょうか。「良いボディに安いレンズ」か、「そこそこのボディに良いレンズ」か。カメラ選びで誰もが一度は通る分かれ道です。
「モノの価値、再発見マガジン」編集長の結城です。元プロダクトデザイナーという経歴柄、私は製品を「買った瞬間の満足度」だけでなく「手放すときの価値」まで含めて評価するようにしています。その視点で中古カメラ市場の価格データを定点観測してきた結論を、先に少しだけ明かしておきます。ボディとレンズでは、価値の減り方がまったく違います。
この記事では、ソニー・キヤノン・ニコンの3大メーカーの現在地を整理したうえで、ボディとレンズの価値変動の構造的な違いを実際の価格データから分析します。読み終わる頃には、「どのメーカーの、何にお金をかけるべきか」の判断軸が変わっているはずです。
目次
ミラーレス一眼市場の今:3大メーカーの勢力図
まず市場全体の状況から押さえます。リセールバリューは需給で決まるので、市場が伸びているか縮んでいるかは価値分析の大前提になるからです。
CIPA(カメラ映像機器工業会)の統計によると、2025年のデジタルカメラ世界出荷は約944万台で前年比111.2%。2年連続のプラス成長です。スマートフォンに押されて縮小を続けた2010年代を知っている身としては、隔世の感があります。内訳を見ると、ミラーレスが約631万台(前年比112.5%)と主役を担い、一眼レフは約6.9万台まで縮小。レンズ交換式カメラの世代交代は、事実上完了しました。
注目すべきは金額です。ミラーレスの出荷金額は約6,987億円で、平均単価は1台あたり約11万円。カメラは「安く数を売る」市場から「高くても欲しい人に売る」市場へ完全に転換しています。単価の高い市場は中古の受け皿も厚くなるため、リセールバリューを考えるうえでは追い風です。
メーカー別のシェアはどうか。2024年の世界出荷台数は業界推計でキヤノンが約38%、ソニーが約35%、ニコンが約13%。一方、日本国内の販売シェア(BCN調べ、2024年)はソニー35.8%、キヤノン26.0%、ニコン14.5%と、国内ではソニーが首位です。世界ではキヤノン、国内ではソニー、そのどちらでも3位につけるニコン。この3社で市場の8割前後を占める寡占構造が、今のミラーレス市場です。
ソニー・キヤノン・ニコン、3大メーカーの現在地
3社の特徴を、リセールバリューに効く要素を中心に見ていきます。性能比較の記事は世の中に山ほどあるので、ここでは「中古市場でどう評価されるか」に軸足を置きます。
ソニー:Eマウント10年超の蓄積が生むレンズ資産
ソニーのαシリーズの強みは、フルサイズミラーレスに最も早く参入した先行者利益です。Eマウントは2010年から続いており、純正・サードパーティ製を合わせたレンズの選択肢は3社の中で群を抜きます。
これが中古市場でどう効くか。マウントの利用者人口が多いということは、中古レンズの買い手も多いということです。売りたいときに買い手がすぐ見つかる市場は、価格が崩れにくい。株式で言えば「流動性が高い銘柄」で、Eマウント資産の値持ちの良さはこの構造に支えられています。2025年12月にはベーシック機の最新世代であるα7 Vが発売され、ボディの世代交代も順調です。
キヤノン:世界シェア首位、RFマウントは成長期
キヤノンのEOS Rシリーズは、世界シェア首位のブランド力が最大の武器です。エントリー機のEOS R100からプロ機のEOS R1まで、ラインナップの幅広さは3社随一。2025年11月に発売されたEOS R6 Mark IIIは、カメラグランプリ2026の「あなたが選ぶベストカメラ賞」を受賞するなど、中核機の評価も堅調です。
RFマウントは2018年開始とEマウントより歴史が浅く、サードパーティ製レンズの開放も段階的に進んでいる途上です。裏を返せば、純正RFレンズは代替品が少ないぶん中古価格が下がりにくいという側面もあります。長年一眼レフのEFレンズが「中古市場の基軸通貨」だったメーカーだけに、レンズの価値維持力には伝統的な信頼があります。
ニコン:販売シェア3位、しかし中古人気は数字以上
ニコンのZシリーズは、販売シェアこそ3位ですが、中古市場での評価は数字以上に堅い。私がカメラ系の買取価格を定点観測していて感じるのは、ニコンのファン層の「濃さ」です。光学メーカーとしての100年超の歴史への信頼は根強く、あるカメラ系メディアの読者アンケートでは「将来資産価値が高まると思うメーカー」の1位にニコンが選ばれたこともあります。
Z6IIIやZf、Z50IIといった近年の機種はいずれも評判が良く、国内販売シェアも2024年に初のTOP3入り。台数ベースの規模では2強に及ばないものの、「欲しい人が明確にいる」ブランドは中古相場が安定しやすい。これはバルミューダやライカの分析でも見てきた、中古市場の普遍的な法則です。
3社の比較まとめ
| 項目 | ソニー | キヤノン | ニコン |
|---|---|---|---|
| マウント | Eマウント(2010年〜) | RFマウント(2018年〜) | Zマウント(2018年〜) |
| 世界シェア(2024年推計) | 約35% | 約38% | 約13% |
| 国内販売シェア(2024年) | 35.8% | 26.0% | 14.5% |
| レンズ選択肢 | 3社最多(社外含め豊富) | 純正中心で拡大中 | 純正中心で拡大中 |
| 中古市場での特徴 | 流動性が高く売りやすい | ブランド力で幅広く安定 | ファン層が濃く相場が堅い |
正直に言えば、現行世代のボディ性能はどのメーカーを選んでも大きな失敗はありません。差がつくのは、この後に述べる「価値の残り方」です。
本題:ボディとレンズ、価値が落ちにくいのはどっち?
ここからが本記事の核心です。結論を先に言うと、価値が落ちにくいのは圧倒的にレンズです。ただし「なぜそうなるのか」の構造を理解しておかないと、この知識は実際の買い物に活かせません。順番に見ていきます。
ボディの価値はモデルチェンジで階段状に下がる
ボディはデジタル製品です。センサー、画像処理エンジン、AF性能。心臓部がすべて電子部品で構成されている以上、2〜4年周期のモデルチェンジのたびに旧型は「型落ち」になります。価値の下がり方は緩やかな坂道ではなく、後継機の発表を境に一段ずつ下がる階段状です。
実際のデータを見てみましょう。3大メーカーの中核ボディの、2026年7月時点の価格です。
| 機種(発売年) | 新品最安値 | 中古価格帯 | 買取上限の目安 |
|---|---|---|---|
| ソニー α7 IV(2021年) | 約24.9万円 | 約21.0万〜24.9万円 | 約16.0万円 |
| キヤノン EOS R6 Mark II(2022年) | 約28.1万円(発売時) | 約21.5万〜27.4万円 | 非公表 |
| ニコン Z6III(2024年) | 約34.1万円 | 約25.8万〜33.4万円 | 約24.1万円 |
(価格.com等の掲載情報をもとに筆者調べ。相場は変動します)
発売から2年のZ6IIIは買取上限が新品価格の7割程度と、まだ高水準を保っています。一方、発売から4年半が経過し、後継のα7 Vが登場したα7 IVの買取上限は約16万円。発売時の実売価格が約33万円だったことを考えると、残っている価値はおよそ半分です。EOS R6 Mark IIも、R6 Mark IIIの発売を境に中古相場が下落局面に入りました。
誤解のないように補足すると、これでもカメラは家電の中では優等生です。4年半使って半値が残る家電など、ほとんどありません。それでも「後継機の登場で確実に、段階的に下がる」というボディの宿命は、どのメーカーを選んでも避けられないのです。
レンズが「資産」と呼ばれる理由
一方のレンズです。カメラ好きの間では昔から「レンズは資産、ボディは消耗品」という格言がありますが、これは単なる精神論ではなく、市場構造に裏付けられています。理由は3つあります。
- 光学設計は陳腐化が遅く、10年前の名玉が今も現役で通用する
- マウントが存続する限り、新旧どのボディでも使えるため需要が途切れない
- モデルチェンジの周期が長く(10年近く現行の製品も珍しくない)、「型落ち」が発生しにくい
ボディの価値を削る「電子部品の世代交代」が、レンズにはほぼ働きません。F2.8の明るさは10年経ってもF2.8のままです。むしろ評価の高いレンズが生産終了になると、中古価格が新品時を上回る逆転現象すら起きます。デジタル製品では考えられない値動きです。
私自身、機材の入れ替えでボディは何台も手放してきましたが、レンズで大きく損をした記憶がほとんどありません。購入価格の7〜8割で売れることはざらで、数年使って「実質レンタル料は年数千円だった」という計算になることもあります。
結論:「ボディは使うために、レンズは持つために」買う
まとめると、こうなります。
- ボディ:性能は毎年進化するが、価値は階段状に下がる。「今の撮影体験」への支出
- レンズ:性能は変わらないが、価値も減りにくい。「長期保有できる資産」への支出
だとすれば、予算配分の考え方は自然に決まります。ボディは「必要十分な性能」で抑え、浮いた予算をレンズに回す。冒頭の分かれ道の答えは、リセールバリューの観点では「そこそこのボディに良いレンズ」が明確に正解です。良いレンズは撮影体験を引き上げたうえで、価値まで残してくれます。
リセールバリューから逆算するカメラ選び
この構造を理解すると、メーカー選びの視点も変わってきます。
「ボディを選ぶ」のではなく「マウントを選ぶ」
多くの人はカメラを「ボディの性能」で選びます。しかしボディは数年で買い替える消耗品で、長く手元に残るのはレンズのほうです。つまりメーカー選びの本質は、ボディ選びではなくマウント選び。今後10年付き合うレンズ資産を、どの経済圏に築くかという選択です。
その観点で3社を評価し直すと、レンズの選択肢と中古流動性で最も厚みがあるのはソニーのEマウントです。売りたいときに買い手が多い市場は、それだけで資産防衛になります。キヤノンとニコンのマウントは歴史が浅いぶん、純正レンズの中古相場が高値で安定しているのが特徴で、「売るとき高い」経済圏とも言えます。どちらの構造にも合理性があるので、あとは撮りたいもの、そして手に馴染むかどうかで決めれば良いでしょう。
買う時点でできる値落ち対策
もうひとつ、買った瞬間からできるリセールバリュー対策があります。買取査定の減点項目を知っていれば、対策は難しくありません。
- 元箱・説明書・充電器などの付属品を完品のまま保管する
- 保護フィルターとレンズフードを最初から装着し、傷を防ぐ
- 湿度の高い場所を避けて保管する(レンズのカビは査定額が大きく下がる最大の敵)
- ボディのシャッター回数を無駄に増やさない(査定時にチェックされる機種が多い)
- 後継機の発表・発売のニュースを追い、売り時を逃さない
特にレンズのカビは致命的です。防湿庫は2万円前後からありますが、レンズ資産を守る保険と考えれば安い投資だと私は考えています。
手放すときに価値を最大化する売り方
最後に出口の話です。どれだけ丁寧に使っても、売り方を間違えると価値は目減りします。
中古市場そのものは今、強い追い風の中にあります。リサイクル通信の推計によると、国内リユース市場は2023年に3兆1,227億円と14年連続で拡大中。円安と新品価格の高騰で中古カメラの需要も伸びており、買取査定の依頼件数が半年で倍増したという買取業者のデータもあります。売り手にとって、これほど条件の良い時期は近年ありませんでした。
売却の選択肢はフリマアプリと買取専門店に大別されますが、カメラのような精密機器は買取専門店をおすすめします。フリマアプリは一見高く売れそうに見えて、手数料と送料で1割強が消え、さらに「届いたら不具合があった」というトラブルリスクを売り手が負います。動作確認の体制を持つ専門店なら、その場で査定額が確定し、後日のトラブルもありません。買取マッハや買取RECOのような買取店では宅配査定にも対応しているので、複数店で相見積もりを取って売却額の最大化を狙うのが定石です。
売り時の目安はシンプルで、「後継機が発表されたら検討開始」です。発表から発売、そして市場に旧型の売り物が溢れるまでの間に、相場は階段を一段下ります。使い倒す予定がないなら、階段の上で売るのが賢明です。
まとめ
ミラーレス一眼の3大メーカーとリセールバリューについて、要点を振り返ります。
市場はミラーレスへの世代交代が完了し、単価上昇と中古需要の拡大が同時に進む、売り手に有利な局面にあります。ソニー・キヤノン・ニコンの現行ボディに性能面の大差はありませんが、中古市場での性格は異なり、流動性のソニー、ブランド力のキヤノン、ファン層の濃さのニコンという構図です。
そして本題の「ボディとレンズ、価値が落ちにくいのはどっち?」への答えは、明確にレンズでした。ボディは後継機の登場ごとに階段状に価値が下がる一方、レンズは光学性能が陳腐化せず、マウントが続く限り需要が残ります。だからこそ、カメラ選びの本質はマウント選びであり、予算はボディよりレンズに厚く配分するのが合理的です。
スペックは嘘をつかない。しかし、市場はもっと正直だ。カタログの数字だけでなく、中古市場が下す「評価」まで見据えて選んだ機材は、あなたの撮影体験と資産の両方を豊かにしてくれるはずです。良いカメラ選びを。